第2章 奥山
聞こえるのは駿城の車輪の音だけで、まるで俺たちだけしかこの世界にいないような気分にすらなった。
カバネに襲われたあの廃駅から、すでに2つの山を越えている。
さすがのカバネも、山越えは出来ないということだろうか?
明日の午前中に、この山は越えられると侑那は言っていた。
正直、俺も疲弊している。
生駒が作ってくれた、カバネの金属皮膜を配合した剣は酷く重いのだ。
先ほどの戦闘はもちろん、精神的にも経済的にも余裕のない民と接してきて、神経もすり減っている。
一度駿城を降りて、ゆっくりと静かに布団で休ませてもらいたい。
「頼むぞ…奥山駅…」
ぽつりとつぶやいた自分の声は、風に乗って吹き飛ばされてしまいそうなほど頼りなく感じられた。
祈るような気持ちで、剣の柄を撫でる。
今まで戦い抜いてきたのだ。
ここで俺たちの旅を終わらせてはならない。
顕金駅を再興する…そんな菖蒲様の夢を、こんな所で散らすわけにいかないのだ。