第2章 奥山
「…本当に次の駅は、大丈夫なのでしょうか。」
轟音の中、菖蒲様が顔を曇らせる。
気を強く持ちたいが、無理もない。
皆が険しい表情で、黙りこくっている。
急遽向かうことになった、極北の駅は奥山駅といった。
名前の通り、一日がかりで山を越えた先にある山奥の駅だ。
地図で見た限りだと、かなり大きい。
普通の駅の3倍はくだらない大きさだ。
菖蒲様がお持ちになっていた資料に目を通す限り、かつては農業や伝統工芸で栄えた駅らしい。
しかしそれはもう何十年も前のことだ。
10年ほど前から突然一切の情報が途絶えている。
今存続しているのかもわからない。
つまり、完全に賭けで俺たちは奥山駅に向かっている。
四方を山に囲まれて完全に孤立している駅だ。
もしそこもカバネの住処になっていたら…終わりを覚悟しなくてはならない。
仮に存続していても、今までの駅の様に貧しい駅だとしたら。
強制的に物資を奪うような形になってしまう。
人間同士が争うなど、あってはならない。
「お気持ちは…わかります。しかし…。」
侑那がこちらを振り返らず、ため息をつきながら言った。
「奥山駅に向かうことは完全な賭けです。
扉が壊れかけた今、この山を越えていくことでさえ危険だ。
でも、いずれにせよ、もうこの駿城は限界です。
ここで止まることも、そして引き返してあの廃駅を再び突破するなどもう出来ない。
行くしかありません…様々なことを覚悟して。」
普段は全く喋らずに、ただひたすらに駿城を動かしている女だ。
その侑那がここまで喋ることからも、事態の緊急性を感じる。
しかしそれでも状況を冷静に見極めて、彼女は駿城を走らせている。
これが最善だと判断したのなら、俺たちはそれを信じるしかないのだ。
「菖蒲様。信じましょう。もう、信じるしかありません。
人里離れた場所で、ここまで大きくなっている駅です。
むしろ、物資が豊富で栄えてるのかもしれません。
それに、もしもの時には…菖蒲様のことは必ず、この来栖が。」