第3章 水
「ああ。
いろいろあって、この駅に来ることになった。
駿城の補修が必要になってな。」
精一杯優しい声を出したつもりだったが、いまだに警戒の色を消さない彼女にむしろこちらが不安になってくる。
身分も明かしたのに、どうしたのだろうか。
俺の剣が不安なのだろうか、それとも男が怖いのだろうか。
色々考えあぐねて、つい聞いてしまう。
「何か…おかしいか?」
こちらの戸惑いを読み取ったのか、彼女は少しあわてた。
「あ、いいえ。
お客さんが来るなんて初めてだから、驚いただけ。
嫌な気持ちになったなら謝るわ、ごめんなさい。」
ぴんと張っていた糸を切ったように、彼女は笑みを見せた。
笑うと、さらに幼い印象を受ける。
歳は俺より少し下…くらいだろうか。
「いや、こちらこそ驚かせてすまなかった。」
いいのよ、と彼女がつぶやく。
「顕金駅なんて、ずいぶん遠いところから来たのね。」
彼女が軽い足取りでこちらに近づいてくる。
そして「よっ」と軽い掛け声とともに俺の横の岩に飛び乗る。
小柄な体からは想像できない飛躍力だった。
一寸の狂いもなく、岩の真ん中に着地する。
素晴らしい運動神経の持ち主だ。
ケロッとした表情で、息切れひとつせずに彼女は笑う。
「あなたは、武士?
刀でカバネと戦うの?」