第3章 水
川まであるとは驚きだ。
飲み水のために義務的に作った川ではなくて、自然の美しい川だ。
こんなものは初めて見た。
冷たい風が首を撫でる。
この風に足を当ててみたい。
ふと思い立って、靴を脱いでみる。
締め付けがなくなった足が、一気に緩むのを感じた。
適度な大きさの砂利が、足裏を刺激して気持ちがよい。
澄んだ川の水に少しだけ足先をつけてみる。
尖るような冷たさで、一気に足の血管が収縮するのがわかった。
「きれいな水だ…。」
分かりきったことを、つい口にだしてしまう。
澄んだ水の中で、見たことない魚が泳いでいた。
昔、聞いたことがある。
魚にもさまざまな種類があり、綺麗な水の中でしか住めない魚がいるのだと。
その類だろうか。
顕金駅の川の水は、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
何度もろ過を経て、煮沸してようやく飲めていたのだ。
木漏れ日が水面をまだらに照らし、表面で輝きが無数にちらついている。
ずっと許されていなかった、気の緩む時間。
生まれた時からカバネの脅威にさらされ、そして父の件で逆賊だ、下侍だ、と因縁をつけられてきた俺のこの人生の中で初めての経験ではないだろうか。
目に入った大きな岩に腰掛けてみる。
聞こえるのは川のせせらぎと風が葉を揺らす音だけだ。
絶妙な和音だ。
とても美しい。