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忠心 -甲鉄城のカバネリ-

第2章 奥山


目を線のように細くして、途端おしゃべりになった治田は悪い人間ではなさそうだ。
むしろ目じりに刻まれた皺から、顔に似合わずとても穏やかで人の好い人間なのかもしれない。

久々の客人にはしゃいでいるような印象すら受ける。
物資が足りていない駅では、むごい言葉をぶつけられたり、民が一気に駿城に押し寄せてきて内部を漁ろうとする…そんなことすらあった。
緊張が少し緩んだ。

侑那が器用に駿城から飛びおりる。
治田に深く頭を下げると、話し始めた。

「初めまして。運転手の侑那、と申します。
実はここに来る前にカバネに襲われまして…扉や車輪が壊れかけています。こちらで点検と補修は可能ですか?」

カバネ、と聞いて治田が一気に顔をこわばらせた。
この反応からして、普段カバネと無縁な日々を送っているのだとわかる。
そもそも検問を受けていない状態の菖蒲様と話している。
周りを見渡しても、検問の準備をしようとしているものもいない。

「カバネと…それは難儀なことであった。皆無事であるのか?
補修はいくらでもしていけばよい。
駿城が補修に来ることなどなくてな、補修や点検の知識に明るいものがいなくて申し訳ないのだが…
物資はいくらでもある。」

侑那は安心したようにため息をついた。
補修が出来ることはもちろん、治田の人柄にも安心したのだろう。

「ありがとうございます。作業はこちらで行うので、ご安心を。」

治田は申し訳なさそうに微笑むと、菖蒲様に向き直った。

「さあ、乗客の皆さんを下してあげてください。長旅でひどく疲れたでろう、外の空気を吸って休むのがよい。
菖蒲様は一度、奥山駅領主の竹中家の館にいらしてくださいますよう。私が案内する。」

「かしこまりました、来栖、行きましょう。」

「はっ。」
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