第2章 あなたの右側【エルヴィン】
それ以降、エルヴィンといるときはいつも彼の右隣。
書類の作成を補佐したり、立体機動装置の整備を手伝ったり。
左腕と左手の筋力を強化する訓練もした。
時には一切手出しせず、ただ見守るだけに徹したことも。
功を成したのは、もちろんエルヴィンの努力。
私の手助けがどれだけ役に立ったかはわからないけれど、今では一人で何でもこなす。
「ほら、一緒に飲もう」
テーブルの上に二人分のティーカップが並んだ。
椅子に座り、湯気の立つそれを唇から含む。
「いただきます。…っ、熱っ…」
「大丈夫か?」
「ん…。沢山入れ過ぎた…」
「見せて」
目の前まで歩み寄ってきたエルヴィンが腰を屈める。
太い親指を私の唇に当て、小さく捲った。
「少し赤くなってるか…?」
「大したことないよ。そのうち治るから」
「早く治る民間療法があるんだが」
「え、そうなの?どんなことするの?」
「こんなことだ」
意味深に微笑んだエルヴィンが顔を寄せる。
ブルーの瞳が見えなくなった、次の瞬間。
私の唇は、エルヴィンのそれに包まれていた。
しばしの間、身を任せてみる。
「どうだ?」
少し唇を浮かせたエルヴィンが、悪戯っぽく私を見つめる。
「まだ痛いよ…」
「強請るのが上手くなったな。昔は意地っ張りでなかなか素直になってくれなかった」
二回、三回と、優しく唇が重なる。
「…苦労したってこと?」
「いや。お陰様で捻くれ者の扱いには慣れてる。君といい、リヴァイといい」
「リヴァイと一緒にしないで…」
ムッと唇を尖らせれば、また可笑しそうに声を漏らす。
眉を下げ、目尻に皺を寄せ、唇の隙間から白い歯を覗かせて…。
エルヴィンのこんな顔を知っているのは、私だけ。
とうに見慣れた笑顔が、こんなにも愛しい。
「冗談だ。俺のこと好きな癖に素直になれない君が、可愛くて仕方なかったよ」
私が素直になれたのは、きっとエルヴィンがこういう人だから。
惜しみなく愛情を伝えてくれる。
エルヴィンの言葉も温もりも、まるごと信じていればいい。
だから私は、あなたの行くところへならどこまででも付いていく。