第3章 100年に一度の贈りもの【モブリット】
「こんな女だと思ってなかった?引いた?」
不安げに俺を見るイレーネさんに、愛しさが増してゆく。
重なった二つの手を解き、改めて指と指を絡ませた。
「いいえ。そんなに俺に意識して欲しかったのかと思ったら、いじらしくなりました。可愛いですよ」
「そんなこと言ってくれたの、初めてだね…」
「今までは抑えてましたから。もう、我慢はしません」
「モブリット、好き…」
「好きですよ、イレーネさん」
手も、肩も、初めて俺から触れた。
そして唇も。
重ね合わせた温もりと、キスの合間に見つけたほんの少し涙ぐんだあなたの顔は、きっと一生忘れない。
俺にとってこの夜は、流星群よりも奇跡かもしれない。
「手紙、書きます」
「私も。毎晩夜空を見上げて、モブリットのこと考えるから」
「俺だって…同じ空の同じ星を見上げて、イレーネさんのことを…」
半年後。
調査兵団は、人類の命運を懸けたウォール・マリア奪還作戦へと向かう。
イレーネさんがいなくなってからは本当に過酷だった。
調査兵団は窮地に立たされ、仲間も沢山失った。
そんな絶望の中で心の支えになったのは、間違いなくあなたの存在。
シガンシナ区への山道を越えながら、夜空を見上げてみる。
イレーネさんも今、同じ星を眺めているだろうか。
信念を抱き、新たな道を進む彼女。
俺も精一杯、自分の勤めを果たそう。
兵士として、男として、胸を張れるように。
もし明日命が尽きるとしても。
心はずっと、あなたのそばに―――。
【 end 】