第22章 カレー騒動
「智がね、今カレー作りにはまっててね」
「………う、うん」
俺と目を合わせないまま淡々と話し出したカズの声には何の感情もこもっていなかった。
声を荒らげているわけでもないのにとても怖い。
突然出てきた智くんの名前に嫌な予感しかしなくて。
なんとか相槌は打ったものの、心臓がバクバクして手が震えた。
「作りすぎたからっておすそ分けしてくれたんだよね」
おすそ分け。
智くんから。
つまりこの俺がべた褒めしたカレーを作ったのは智くんということで…
「……………っ!!」
自分が口にしたことを思い返して、一瞬で血の気が引いた。
「美味しいよね、スパイシーで手も込んでるし」
「カ、カズ…ち、ちがうんだ…」
「何がちがうの?今までで1番おいしいんでしょ?」
青ざめる俺になんて目もくれず、カズは無表情でカレーを口に運び続ける。
「ごめんね。いつも手抜きで。どうせ俺は市販のルーしか使ってないし。こんな手の込んだ美味しいカレーなんて作れないし」
淡々と謝られて、冷や汗が止まらない。
「ごめん…俺、てっきりカズが作ったんだと思って…」
「何で謝るの?翔ちゃんは正直に思ったことを言っただけでしょ?」
「それは…そうなんだけど…でも、こんなつもりじゃなくて…」
「早く食べたら?せっかくの美味しいカレーが冷めちゃうよ?」
なんとか言い訳しようとしても、カズは取り付く島もなくて。
泣きそうになりながら食べたカレーは、もうなんの味もしなかった。