第21章 幸せな日々
カズに俺の気持ちがちゃんと伝わったことが嬉しくて俄然やる気が出た。
「俺、戦力になれるよう頑張るから!」
「ありがとう。でもね、焦らないでいいよ。ゆっくりがんばろ」
でも張り切る俺をカズがやんわりと抑える。
そんなすぐ出来るようにはならないってカズには分かってるんだろう。
………まぁ、自分でも分かってるけど。
「はぁ…早くちょっとでもカズの力になりたいんだけどな…」
もどかしくてついため息を吐いてしまった俺を見て、カズはちょっと考えるような顔をした。
「…それならすぐ出来ることから始めてみる?」
「すぐ出来ること?」
「うん。まぁ、ちょっとしたことばっかなんだけどね」
すぐ出来るちょっとしたこととは?と首を傾げる俺に、カズは具体的な例を挙げてくれた。
「例えば、脱いだ上着はすぐハンガーに掛けるとか」
カズの視線を辿れば椅子の背もたれに無造作に掛かったままのスーツの上着。
これは緊急事態だった今日だけじゃなく、日常的にやってしまう俺の癖だ。
そういえばいつも気付くと片付けられてたけど、カズがやってくれてたんだよな…なんて、当たり前のことに今さら気がつく。
「お弁当箱は帰ってきたらすぐ出すとか」
カズの視線が床に転がってるカバンへと移る。
ヤバい、今日のもまだ出してない。
その後も…
「脱いだ服を床に放置しないとか」
「靴下を丸まったまま洗濯機に入れないとか」
「読み終わった新聞や雑誌は積み上げないですぐ片付けるとか」
カズが言うところの“ちょっとしたこと”が次々挙げられて冷や汗がダラダラ出てきた。
どれもこれも心当たりがあり過ぎる。
今までカズに注意されたことはなかったけど、これだけポンポン出てくるということは、これはカズ的に普段から相当気になっていたってことなんだろう。
どんなに負担じゃない大丈夫って言ってくれても、やっぱり小さな不満は溜まっていたんだと思う。