第21章 幸せな日々
「俺、心を入れ替えてもっと頑張るから!料理教室にも通うから!」
「は?え?料理教室?何?なんの話?」
突然の宣言にカズがめちゃくちゃ困惑してるのは分かるんだけど、カズを失うかもしれない恐怖からとにかく俺も必死で。
「だから俺を捨てないで!お願いだから出て行かないでぇぇぇ…」
最後は半分泣きながら訴えてた。
我ながら情けないしみっともない。
でもなりふり構ってる余裕がない。
縋り付くようにぎゅうぎゅうカズを抱きしめていたら、そのうち背中をポンポンと叩かれた。
「翔ちゃ…ちょっと苦し…」
本当に苦しそうな声にハッとして慌てて腕の力を緩める。
カズはほっとしたように大きく深呼吸すると、まっすぐに俺を見つめた。
「なんの話か全然わかんないけど、とりあえず先にこれだけは言っておきます」
口調は穏やかなんだけど、何故か敬語だし、いつになく強い眼差しに、思わずたじろいでしまう。
でもカズは、そんな俺にはお構いなしにビシッと指を突きつけると力強く言い切った。
「俺が翔ちゃんを捨てるなんて絶対にありません!当然、出て行ったりもしません!」
カズは俺を捨てない。
出て行くこともない。
ハッキリ言葉にしてもらったことで、頭に上っていた血が引いていくのが自分で分かった。
不安に揺れていた気持ちもすーっと凪いでいく。
「ちょっと落ち着いた?」
こくりと素直に頷く俺を見て、カズはにこっと笑った。
「とりあえずリビングに行こ?ゆっくり座って話そうよ」
そう言われてやっとここが玄関で、まだ靴すら脱いでいなかったことを思い出す。
冷静になった頭で帰って来てからの自分の行動を振り返ったら、あまりの恥ずかしさに身悶えてしまったけど。
「今日はただいまのちゅーはしてくれないの?」
ふるふる震える俺に、カズは可愛くおねだりしてくれて。
突然こんな訳の分からないことをされたのに怒ることもなく、いつも通りに振舞ってくれるカズの寛容さに感服して。
めいっぱいの愛と感謝を込めて、カズの頬にそっとキスを落とした。