第21章 幸せな日々
言葉を失った俺を見て、潤がふいに表情を和らげた。
「…なんてな」
「え?」
なんてな?…って何?
それはどこに掛かる言葉?
話の展開についていけず戸惑う俺。
しかしそんな俺には構わず、潤は自嘲的な笑みを浮かべると話を続けた。
「偉そうなこと言ったけど、実は今の全部、俺が智に言われたことなんだよ」
「潤が?智くんに?」
「まぁ、なんで急にこんな話をしたかって言うとさ。最近、まさにこのことで俺が智に怒られたんだよ」
智くんが怒った?
ちょっと意外な気がしたけど、すぐに、いやそうでもないかと思い直す。
基本的には穏やかでいつもニコニコしてる智くんだけど、意外と頑固だし、自分の意見も言う時は結構はっきり言う。
そして普段あまり怒らない分、怒った時はめちゃくちゃ怖い。
それは過去カズ絡みで何度か怒らせてしまった経験があるので身をもって知ってる。
潤に対して怒ってるのも見たことがある。
でもこのことでっていうのは家事問題でってことだろ?
潤は俺と違って料理も上手いし、掃除も洗濯も一通り出来たはずだ。
それなのになんで怒られることになったのかを聞けば、潤は情けなく眉毛を下げた。
「うちも智の方が家にいる時間が長いだろ?それで俺もつい甘えちゃったんだよな…」
潤が言うには、もちろん最初は潤もきっちり家事をしていた。むしろ潤の方が多くやっていたらしい。
でも忙しい時期があって、残業が増えて。
疲れ果てて家のことが何も出来ない日が続いた。
この時、智くんは何も言わずに全ての家事を引き受けて潤を支えてくれたらしい。
問題はこの後。
「ちょっとサボり癖がついてたのもあったし…単純に智が世話焼いてくれるのが嬉しくてさ、完全に甘えてたんだよ」
忙しさは落ち着いたのに、家事の主体は智くんのまま。潤は手伝い程度しかしなくなったそうだ。