第20章 卒業式
「カズ…」
翔ちゃんはなかなか俺の言うことを受け入れられないみたいだったけど。
俺の気持ちがちゃんと伝わるようにじーっと見つめ続けていたら、やがて根負けしたみたいに笑った。
まだちょっと困ったみたいな笑顔だけど、翔ちゃんがやっと笑ってくれて嬉しくなる。
そりゃ翔ちゃんはどんな顔しててもカッコいいけど。
やっぱり笑顔が一番好きだもん。
好きな人にはいつだって笑っててほしいよ。
「翔ちゃん♡大好き♡」
「俺も大好きだよ」
ぎゅっと抱きつけば今度は心からの笑顔を見せてくれて、優しく抱き締め返してくれた。
ああ、幸せ♡
さっきの恐怖が完全に消えてくみたい。
ずっとこうしていたいな…
でも幸せな時間は長く続いてくれなかった。
ふいに誰かがこちらに近付いてくる足音が聞こえて。
2人してビクッとしてしまう。
抱き合ったまま息を殺してじっとしていたら、その足音は俺たちの隠れてるすぐ近くで止まった。
一瞬で翔ちゃんの顔が険しくなる。
ここは死角になってるけど、行き止まりでこれ以上逃げようがない場所で。
今見つかっちゃったらどうしたらいいの…
「大丈夫だから落ち着いて。次は絶対に守りきる。もう二度と誰もカズに触れさせないから」
翔ちゃんはオロオロする俺を背中に庇うと、小さな声で囁いた。
小さいけど、決意に満ちた力強い声だった。
その声にちょっと冷静になる。
俺だって今度こそちゃんとしなくちゃ!
大した戦力にはなれなくても、せめて足手まといにはならないように。
意識的に深く呼吸をして無理やり動揺する心を落ち着かせた。