第20章 卒業式
「なにこれ…」
いつの間にか俺たちを取り囲んでる輪がじりじりと狭まってきていて。
気付けば人の壁がもう手を伸ばせば届くところまで来てる。
ちょっと前…翔ちゃんの誕生日に女装した時も似たような感じで囲まれたけど、あの時とはなんか空気がちがう。
「先輩!好きです!」
「好きなんです!」
みんな目がギラギラしていて、辺り一帯が異様な熱気に包まれていて。
その熱が俺にも向けられてるんだと思ったら、体が勝手に震え出した。
「やだ…こわい…」
思わず後退るけど、ぐるっと囲まれてるからもちろん後ろにも人の壁があって。
どこにも逃げ場がない。
「寄るな!」
翔ちゃんが睨みながら怒鳴りつけるけど、いつもなら言うことを聞くはずの後輩たちが今日は誰も足を止めようとしない。
もう明日から会わないから、どうなってもいいと思ってるのか?
「やめろ!」
「来るな!」
上田や菊池たちも何とか追い払おうと奮闘してくれてたけど、圧倒的な人数差の前に為す術もなく。
「わっ……」
俺たちはあっという間に押し寄せた人波にのみ込まれてしまった。
「好きなんですっ!」
「最後に思い出をくださいっ!」
「櫻井先輩っ!」
「二宮先輩っ!」
もがく俺たちに対して、変わらず口々に好き勝手なことを叫び続ける輩たち。
その身勝手さにだんだん腹が立ってきて。
ある瞬間に怒りが恐怖心を超えた。
「お前ら!!好きだって言えば何をしても許されると思うなよ!!」
そんなのが免罪符になんかなるわけない!!
大体本当に好きなら相手のことを思いやれるはずだろ!!
こんなやり方で俺たちから何を得られると思ってるんだ!!
思いに応えるどころか、むしろ大嫌いになったからな!!