第19章 誕生祝い to Sho * 3rd
でもそんな俺の覚悟はなんの意味もなかった。
カズが1歩踏み出した瞬間に、俺たちの前の人垣がざっと左右に割れて道が出来たから。
出た!!モーセ現象!!
どうやら場所や野次馬の人数が変わっても起こる現象は同じらしい。
「やっぱり大丈夫だったねー」
「さっきと同じだねー」
カズは特に驚くこともなく、俺の反対側にいる智くんとのほほんと話しながら、出来た道を当たり前みたいな顔をして歩いていく。
俺たちが通り過ぎると道はすぐに塞がって、野次馬たちも後をぞろぞろついてきて。
俺が振り返って睨めば “だるまさんがころんだ” 状態になるところまで昼休みと同じだ。
カズがもみくちゃにならなかったことには安心するけど、やっぱりこの状況に良い気はしない。
大体こんな風に囲まれて不躾な視線に晒されて、カズはどう思っているんだろう?
恐怖心を感じていたりはしないだろうか?
ニコニコ智くんとお喋りしているカズに怯えた様子はないけれど、それでも心配になって。
周囲を威嚇しつつ、本人に確認してみたら
「まぁ、文化祭でもないのに女装してたらそりゃ目立つよね。ある程度は覚悟してたし、珍獣扱いも仕方ないよ」
なんて、あっけらかんとした答えが返ってきた。
…うん。
カズが怖い思いをしてないならいいんだ。
いいんだけど、物申したいこともある。
カズは珍獣扱いで騒がれてるって思ってるみたいだけど、違うからね!?
確かに校内に女子高生がいるのは珍しくて目立ってるけど。
騒ぎがここまで大きくなったのは、カズが可愛すぎるせいだ。
いくら女装して目立ったって、可愛くなければ笑われてお終い。こんなに人が集まるわけない。
「パンダの赤ちゃんみたいな人気だよね」
「パンダー?そんな可愛いもんじゃないでしょ」
智くんが可愛い人気者に例えても、カズはさらっと受け流してしまう。
相変わらず自分の魅力に無自覚だ。
「いや、パンダよりカズの方が何倍も可愛いからね」
俺の言葉もそのまま受け取ってはもらえないだろうと思いつつ、それでもとりあえず訂正はしっかりしておいた。