第12章 雨の日は
もう結構長い間、俺の傘は出番がない。
うちの玄関の傘立ての中でずっと眠ってる。
だって、朝から雨の日は翔ちゃんがうちの前まで迎えに来てくれて。
翔ちゃんの傘で相合い傘しながら学校まで行って。
もし帰りも雨が降ってたら、うちの前まで送ってくれる。
これが最近の雨の日のお約束。
翔ちゃんの負担が大きくなっちゃうから申し訳ないなって思うんだけど。
その翔ちゃんが「俺が好きでやってることだから気にしないでいいんだよ」って言ってくれるから、お言葉に甘えちゃってる。
「カズ、濡れないようにちゃんとくっついててね?」
「うん♡」
翔ちゃんは絶対俺が濡れないようにしてくれるから、俺が翔ちゃんにくっついてないと翔ちゃんが濡れちゃうもんね。
大義名分があるから、雨だと堂々とくっついて歩けるのが嬉しい。
「もう梅雨なのかな」
「梅雨入りの発表はまだだけどね」
なんてことない会話も、翔ちゃんの声がいつもより近くで聞こえるから、耳が幸せでぽわぽわする。
大きな傘にすっぽり覆われたこの空間は、まるで外の世界と遮断された2人だけの世界みたいで。
いつもより長く一緒にいられて。
いつもより近くに翔ちゃんを感じられて。
雨が好き。
翔ちゃんと過ごす雨の日が大好き。