第11章 新年度 3年生
とりあえず何もなかったことは伝わったようで、翔の目から心配の色が消えた。
「カズは宇宙一可愛いんだから気をつけてね」
「そんなこと言うのは翔ちゃんだけだよ」
それでも刺したクギは、ニノには全く刺さらない。
かなり嬉しそうに顔が緩んでるけど、言われたことはさらっと受け流してしまってる。
きっと自覚してくれる日は来ないんだと思う。
「まぁ、いいか…カズのことは俺が守るから」
翔は困ったような、でもすごく幸せそうな、なんとも言えない顔で笑うと、ニノの髪の毛をくしゃりと撫でた。
ニノは嬉しそうにふわふわ笑ってて。
そんなニノを見てやっぱり嬉しそうに微笑んでる智も、その可愛さを自覚してくれる日は来ないんだろう。
ついため息を吐いてしまった俺も、きっと翔と同じような顔になってるはず。
だって考えてることも同じだから。
自覚してくれなくてもいいかって。
智のことは俺が守るからってさ。
自覚してくれよとため息を吐きながらも、そんな智を守れるのは俺だけの特権で。
それをすごく幸せだって思ってるんだ。
「ちょっと!みんなして何こんなところでサボってんの!まだ片付けがあるのに!」
「えぇー…」
「えぇー…じゃないよ!ニノは生徒会役員でしょ!」
なんだかまったりしていたら、雅紀たちがやって来て一気に騒がしくなった。
そうだった…まだ終わりじゃなかった…
「カズが嫌なら上田たちに任せて帰っちゃおうか?」
「うーん…それは可哀想だからダメ」
「じゃあ頑張ってさっさと終わらせよう」
「うん♡」
雅紀にはうだうだ言ってたニノも、翔の言うことは素直に聞いてあっさり歩き出した。
その後に不貞腐れる雅紀とそれを宥める風間が続いて。
「潤も行くよ」
4人のやり取りを眺めていた俺の腕を、智が笑顔で引っ張った。
なんてことないやり取り。
ごく当たり前の日常だけど。
2年前には想像も出来なかった未来は、こんなにも幸せで。
この、いつの間にか当たり前になった幸せな日常をこの先もずっと守っていきたいと。
新しい春の日に気持ちを新たにした。