第11章 新年度 3年生
ダッシュするニノに何とか追いつき、3人で滑り込んだ講堂の隅っこ。
校長挨拶やら来賓祝辞やら祝電披露やら、新入生ではない俺らには関係ないそれらをアクビを噛み殺しながら聞き流し。
やっと来た翔の出番。
「はぁぁ♡翔ちゃんカッコいいぃ♡」
途端に今まで眠そうにしていたニノの瞳がキラキラと輝き出し、ため息にも感嘆にも聞こえる声でうっとりと呟いた。
胸の前で両手を組んで、まっすぐに翔だけを見つめる姿は完全に恋する乙女だ。
まぁ、見慣れた姿だしそれについては今更なんとも思わないけど。
怖いのは翔だよ。
まるでニノの呟きが聞こえたかのように、翔は壇上に上がるなりチラリとこちらに視線を向けて、嬉しそうにニコッと微笑んで。
「翔ちゃん♡」
ニノは嬉しそうに手を振ってるけど。
いや、こんだけ人がいるのに、よく一瞬でニノを見つけられたな。
目や耳に高性能センサーでもついてんの?
それともニノにGPSでも埋め込んであるのか?
感心通り越して、もはや恐怖なんだけど。
けっこうマジでビビる俺にはお構いなしに、一礼した翔が口を開いた。
「新入生の皆様ご入学おめでとうございます」
大勢の新入生やその保護者の前でも緊張することなく堂々と挨拶をする姿は確かにかっこいい。
それにしても、ニノが見てるからって張り切りすぎじゃないか?
無駄にキラキラすんな!
っていうか、目線が不自然過ぎる!
ニノじゃなくて新入生を見て話せ!
突っ込みたいことは山のようにあるが、式の真っ最中だから突っ込めないのがもどかしい。
視線を翔から隣に移せば、ニノは相変わらず目をハートにして翔に見惚れているし、そんなニノを智がニコニコ見守っていて。
その微笑ましい光景に、翔のせいで疲れた心が少し癒された。