第10章 ホワイトデー
「二宮先輩!」
カズを抱き締めて幸せに浸っていたのに。
それを邪魔するのは聞き慣れた声。
「あれ?」
呼ばれて振り向いたカズは目を丸くすると、するりと俺の腕から抜け出てしまった。
反射的にその原因を睨みつけると、ドア付近にいた声の主である生徒会の後輩トリオはサッとドアの陰に隠れたけど。
「みんなしてどうしたの?」
カズが近づいて行くと、パッと顔を輝かせてカズに駆け寄っていった。
「先輩!バレンタインはありがとうございました」
「これ、ホワイトデーのお返しです」
「今日生徒会がないので…」
「えっ?俺、大したものあげてないのに…なんか却って気を遣わせてごめん…」
次々にお菓子らしき包みを手渡されたカズは、びっくりしてから申し訳なさそうに眉毛を下げた。
「そんなことないですよ!」
「すげー嬉しかったです!」
「ほんと?」
「本当ですよ!俺たち本当に嬉しかったんです!」
何だかシュンとしてしまったカズに後輩たちが必死に嬉しかったんだと訴える。
それを聞いてカズの表情も和らいで。
「じゃあ遠慮なくもらっちゃうよ?ありがとね」
ニッコリ笑ってお礼を言うと、3人して途端に頬を赤らめた。
何だその反応…
カズが可愛いのは分かるが、それでも腹が立ってギリっと奥歯を噛み締める。
その音が聞こえたとは思わないけど、3人はチラリと俺を見ると今度は青くなった。
まぁ、めちゃくちゃ睨んでる自覚はある。
用が済んだなら、とっとと帰りやがれ!
「じゃあ、これで!」
「失礼します!」
「あ、うん。わざわざありがとう」
「また生徒会で!」
俺の怒りを察知したのか、3人はカズに頭を下げると逃げるように走り去って行った。