第10章 ホワイトデー
「なんかいっぱいもらっちゃった」
カズがお菓子を抱えて戻ってくる。
その包みを見た潤と雅紀が、お!と反応した。
「これ、今すげー話題の店のじゃん!あ、こっちも!並ばなきゃ買えないやつだよ」
「これは限定じゃなかった?」
「そうそう!」
「すげー、みんな気合い入ってんな」
なんて、2人してやたら感心しながら笑ってる。
そういうのに疎い俺は全然知らなかったけど、どうやらどれもこれも有名な店のものらしい。
そんなものを用意するなんて、アイツらやっぱりカズのこと…?
また疑惑が深まり、ちょっと心配になってくるけど。
「へぇ、そんなにすごいのなの?」
カズはあまり興味がないのか、潤たちの話を聞いても淡々としてて。
「嬉しくないの?手に入れるの大変なのばっかだよ?」
「そりゃ気持ちは嬉しいけど。どっちかって言うと申し訳ないよ、あんなちっちゃいチョコ1個しかあげてないのに」
雅紀に聞かれても肩をすくめるだけで、特に気持ちが動いてなさそうな様子にホッとする。
いや、別にカズを疑うわけじゃないけど。
もので釣られると思ってたわけでもないけど。
こんなすごいもの持ってこられちゃうとさ、俺のお返しが霞むというか。
愛はめちゃくちゃこもってるし、それは誰にも負けないつもりだけど。
でもちょっとだけ自信がなくなってしまう。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、カズはもらったものを机に無造作に置くと、すぐに俺の元に戻ってきて。
「それに俺が一番嬉しいのは翔ちゃんからのお返しだもん」
まっすぐに俺を見つめてにっこり微笑んだ。
「翔ちゃんが俺のために用意してくれたもの以上のものなんてどこにもないよ」
俺のちっぽけな不安も心配も嫉妬も、カズの笑顔が全て吹っ飛ばしてくれる。
俺はこんなに想われてるんだ…
「ありがとう、カズ」
嬉しくて愛しくて。
はいはい、ごちそうさま…なんて。
揶揄う声も聞こえたけど、そんなのはまるっと無視して。
再びカズを抱き寄せる。
「ふふ、大好き♡翔ちゃん♡」
カズも笑いながら背中に手をまわしてくれたから、めいっぱいの愛を込めて、大切な人をしっかり抱き締めた。