第10章 ホワイトデー
「ありがとね、潤。俺もすごく嬉しいよ」
「智…」
にこっと可愛く笑う智に更に気持ちが浮上する…と思いきや。
「クマには見えないけど可愛いよ。微妙だけど可愛い」
「ねぇ、それ褒めてんの?貶してんの?」
どちらかと言うとトドメを刺された気分なんだけど。
「どっちでもない。正直な感想」
「………そうですか」
くすくす笑う顔はめちゃくちゃ可愛いのに言うことは厳しい。
まぁ、事実だから仕方ないか。
「翔くんと作るの大変だったんじゃない?」
智はスッと近付いてくると、翔たちに聞こえないように小さな声で聞いてくる。
「いや。クッキー生地は俺一人で作ったから、そんなに大変なことにはならなかったよ。翔は型抜きして顔描いただけ」
「それって、ほぼ潤が作ったんじゃん。なんだ、そりゃ美味いに決まってるよね」
智にはバラしてもいいだろうと正直に答えると、智はちょっとだけ目を丸くして。
でも納得したように言い切ってくれるから嬉しくなった。
「智も食べさせてやろうか?」
「いや、自分で食べるからいい」
ちょっと調子に乗ってみたらあっさり断られて。
智はさっさとクッキーを取り出すと、本当に自分でパクッと食べてしまった。
ちぇ、バレンタインの時のようにはいかないか。
「…うま」
一口かじった智の顔がほにゃっと緩む。
低くて小さな呟きは、大袈裟に褒めない分リアルで。
本当に美味しいと思ってくれてるのが伝わってくる。
ああ、良かった…
智が喜んでくれるのが何よりも嬉しい。
凹んでた気持ちも拗ねたような気持ちもどこかへ飛んで行く。
我ながら単純だと思うけど、それくらい智のことが好きなんだよ。
智のためならいくらでも作るからさ。
これからもずっと、俺の作ったものを美味しいって笑って食べてくれよな。