第10章 ホワイトデー
簡単だと思っていた型抜きクッキー。
しかし、これがなかなか難しかった。
生地を作るところまでは良かったんだ。
うちで作業することになったから、生地作りは俺が請け負って。
粉をふるうことすら怪しい翔がいないうちにと、前夜のうちに作って冷蔵庫で寝かせておいたから、キッチンが粉まみれになる…みたいなことはなかったし。
3人でワーワー言いながら作業するのも楽しかった。
でも…
「あ!手がちぎれた…」
「あー、足が伸びる…」
何故か綺麗に型で抜けず、翔と2人で悪戦苦闘。
自分が器用ではないと分かっていたつもりだったけど、翔と同レベルなことに地味に凹む。
クッキーだから、焼く前なら失敗したっていくらでもやり直しはきくんだけどさ。
何度も失敗して心が折れそうになる。
全然簡単じゃねー!
型抜きクッキーを舐めてた!
「あはは!なんでそんなになるのさ!」
1人綺麗なクマを量産してる雅紀は苦戦する俺たちを見て爆笑してるし。
「うるせー!」
「なんかコツ教えてくれ!」
「コツ?そんなのないよ。普通に抜いてるだけだもん」
「普通って何?!」
「あははは!」
笑いながらも雅紀が手伝ってくれて。
大騒ぎしながら何とか完成させたクッキーだから、こんだけ喜んでもらえると嬉しい。
翔と雅紀と小さくガッツポーズして喜びを分かち合ったりしてたんだけど。
「本当に可愛いね♡このカエルさん♡」
ん?
「うん、カエル…いや、クマかも?」
んん?
「何言ってんの、2人とも。クマでしょ?」
きっぱりクマと言い切ったのは風間だけ。
「え?クマ?」
「見せて!」
「………」
「………」
「………」
お互いのクッキーを見せ合いっこして、急に無言になる3人。
いや、黙んなよ!
傷つくだろうが!
言いたいことは分かるけども!
これが俺たちの精一杯だったんだっつーの!