第9章 バレンタイン
櫻井先輩は無言だけどその目が “受け取ったらコロス” と言っていて。
いやいや、ちょっと心狭すぎじゃない?
別に俺たちからくれと強請った訳じゃないし、明らかに義理チョコだし、先輩は絶対本命チョコもらってるだろうに…って、心の中ではいくらでも言えるけど。
実際に口にする勇気はない。
「なに?どうしたの?」
俺たちが不自然に固まってしまったもんだから、二宮先輩が怪訝そうに首を傾げる。
「いや…あの…」
「その…ですね…」
「えええっと…」
馬鹿正直に櫻井先輩が怖くて動けませんとも言えないし。
しどろもどろになっていたら、二宮先輩の顔が悲しそうに曇った。
「もしかして俺の手作りなんてやだ?」
「え!?手作りなんですか!?」
「…うん」
マジか!!ますます欲しい!!
二宮先輩の手作りなんて食べたいに決まってる!!
でも櫻井先輩の無言の圧が強すぎる…
「ごめん…後輩だからいらないとか言い難いよね…」
俺たちが動かないもんだから、二宮先輩の目がだんだん潤み出して。
櫻井先輩の眼光がギロっと更に鋭くなって、今度は “何泣かせてやがる” と言っている。
いやいや!あんたのせいだよ!
…とは、やっぱり口に出せず。
で、冒頭の状態に陥ったワケ。
あーーー、もう!!!
もういいや。受け取っても受け取らなくても怒られるなら、俺は二宮先輩を泣かせない方を選ぶ!
覚悟を決めて、笑顔を作る。
「いえ、本当に嬉しいですよ!いただきます!」
引っ込め掛けてた二宮先輩の手をガシッと掴むと、その手からチョコレートを1つ受け取った。