第9章 バレンタイン
-おまけの後輩side-
目の前には目をうるうるさせて今にも泣き出しそうな二宮先輩。
その後ろに目線だけで人を射殺せそうなくらい怒れる櫻井先輩。
こういうの “前門の虎後門の狼” って言うんだっけ…なんて。
のんきにことわざを思い出して現実逃避している場合ではない。
俺たちは今、かなりピンチな状況に陥っている。
事の発端はほんの数分前……
「あ!上田、増田、菊池!これあげる!」
生徒会室に入ってくるなり、二宮先輩がはいっと差し出したのは美味しそうなチョコレート。
「いつも何だかんだ世話になってるから…ハッピーバレンタイン♡」
おおお!マジか!
可愛らしくはにかんだ先輩の笑顔に、テンションが一気に上がる。
まさか先輩からチョコがもらえるとは思ってなかった。
やべぇ、かなり嬉しい!!
先輩が天使に見える!!
「もちろん義理チョコだけどね!」
しっかり釘を刺されるけど、そんなの言われるまでもなく理解している。
二宮先輩が櫻井先輩とお付き合いをしているのは嫌ってほど知ってるし、二宮先輩に対して邪な気持ちも持っていない。
それでもこんな可愛い人からチョコをもらえるのは単純に嬉しい。
「分かってますよ!」
「それでも嬉しいっす!」
「ありがとうございます!」
ほかの2人も同じ気持ちなんだろう。
デレっとした顔で先輩に頭を下げてる。
そりゃニヤけちゃうよな。
俺だって同じような顔をしてると思う。
でも、3人揃ってウキウキとチョコレートに手を伸ばしかけたその時。
急にものすごい殺気を感じて。
恐る恐る顔を上げたら、二宮先輩の背後に鬼の形相で立っている櫻井先輩と目が合って。
金縛りにあったかのように、ピタリと手が止まってしまった。