第9章 バレンタイン
ニノと翔のやり取りを羨ましそうに見ていた雅紀は
「風ぽん!俺も食べたい!食べさせて!」
大きく口を開けると、早く早くと風間を急かす。
風間は火でも吹きそうなくらい赤い顔をしてたけど、おずおずと雅紀の口にチョコを運んだ。
パクリと食べた雅紀は満足そうに笑うと、風間の手からもう1本のスプーンを奪って。
「ありがと!はい、風ぽんも!」
「えっ、いや、俺は…」
「いいから口開けて!はい!」
半ば強引に風間の口に押し込んだ。
「美味しいね!」
「うん…///」
風間の反応が初々しくて何だか微笑ましい。
2組のカップルがイチャつく中、智はスプーンを手に赤い顔をして固まっていて。
自主的に食べさせてはくれなさそうだな。
まぁ、ここ学食だしね。
俺たちさっきから注目されまくってるからね。
そりゃ恥ずかしいよな。
でも、せっかくニノが作ってくれた機会だ。
無駄にしたくはない。
智が動かないなら俺が動こう。
智の手からスプーンを1本抜き取って、智の口元に運ぶ。
「ほら、智。あーんして?」
「やだよ///」
すんなりと口を開けてくれないのは予想済み。
「食べないとニノが泣くんじゃない?」
「……っ!!」
狡いとは思うけど脅させてもらう。
ニノの名前にびくっと反応した智は、少し迷ってから観念したみたいに口を開いた。
「…おいし///」
「でしょ♡生チョコ風にしたんだよ♡」
もぐもぐしながら小さく呟いた智に、ニノが嬉しそうに笑う。
「俺にも食べさせてよ」
「………///」
口を開けて待ってみたら、もう諦めたのかすんなり食べさせてくれた。
「うん、美味い」
美味いし、何より幸せだ。
この辺りだけ、空気までチョコと同じくらい甘ったるいんじゃないかと思うけど。
でもまぁ、いっか。
バレンタインなんだから。
みんな幸せそうに笑ってるし。
年に1度くらい、こんな甘いだけの日があってもいいだろう。