第9章 バレンタイン
「はぁ!?」
「何でそれ知ってるの!?」
「何でって…会話が全部丸聞こえだったからだけど」
焦った顔をする智と風間に、雅紀はあっさり答える。
あの距離で聞かれてないと思ってたとか…
聞こうとしなくても聞こえてたっつーの。
「あれねー、すっごくいいと思ったのに智も風間も恥ずかしいからやだって言ったんだよ」
動揺を隠せない2人に対してニノはむぅっと口を尖らせる。
でも怒ってる訳じゃなくて、むしろ楽しそうというか…何か企んでそうな顔してる。
「やっぱり雅紀も潤くんも期待してたよねぇ?」
雅紀だけじゃなくて俺の心まで見透かされてて。
なんで分かるんだよ!
顔には出してなかったはずなのに!
すげー楽しそうにニヤニヤしてるのが怖ぇんだけど!
「…というわけで!じゃーん!!」
ご機嫌なニノがカバンから何かを取り出した。
「俺が作っておいたよ♡あーんしやすいチョコ♡」
おお!なんだ、ビビって損した。
バーンと突きつけられたニノの手には、大量のカラフルなプラスチックスプーンが握られていて。
1本1本くぼみの部分に可愛らしくデコレーションされたチョコが乗っている。
なるほど!確かにこれはあーんしやすいな。
一体どんなのかと思ってたけど、こういうことか!
謎が解けてスッキリだ。
「はい、俺からの友チョコ♡智も風間も、ちゃんと潤くんと雅紀にあーんしてあげてね!」
「ええっ…///」
「ニ、ニノ…///」
狼狽える智と風間の手に問答無用で2本ずつスプーンを押し付けると、ニノはくるっと翔に向き直った。
「もちろん翔ちゃんのは本命チョコだからね♡」
ニノの手には赤いスプーン。
チョコレートには小さなハートがこれでもかってくらいくっついている。
「あーん♡」
「あーん♡うん、美味い!」
「愛情たっぷりだもん♡」
「ありがとう。大好きだよ、カズ♡」
「俺も♡大好き♡」
なんの躊躇いもなくあーんするニノと素直に食べる翔。
いつも通りっちゃいつも通りだし、いつも以上に激甘っちゃ激甘だけど。
去年のことを思えば、砂糖を吐きそうなくらい甘いやり取りも平和な証拠で安心する。