第9章 バレンタイン
ちらりとカズを見てみたら、両手で顔を覆って俯いていた。
一瞬また具合が悪くなったかと焦ったけど、よく見たら耳が真っ赤で。
照れてるだけかな?
本当はね、カズが俺の恋人だって言いたいよ。
こんな可愛い子と付き合ってるんだって世界中に自慢したい。
でも、同性同士の恋愛が世間一般にはあまり受け入れられるものではないということは知っているから。
無理に隠そうとは思わないけど、積極的に公言しようとも思わない。
ましてや、この子たちは少なからず俺に好意を抱いてくれてるわけで…
うっかりバラして万が一にでもカズに敵意を向けられたらたまったもんじゃない。
だから誰かは隠したまま、恋人自慢を続ける。
「料理上手でよく美味しいお弁当を作ってくれるんだけどね、なんとお菓子作りも上手で!誕生日にはケーキまで焼いてくれてね、これがまた美味しいのなんの!で…」
「いえ、あの、もう大丈夫です!」
「本当にその方のことをお好きなのは分かりましたから!」
「そう?」
俺はまだまだ語る気満々だったのに、女の子たちは強引に話を遮ると、ペコリと頭を下げてそそくさと去って行ってしまった。
こんな短時間じゃカズの魅力はとても語り尽くせないのにな……って、違う違う!!
カズを待たせてるんだった!!
「カズ、待たせてごめん!」
慌てて駆け寄ってその手を取ったらとても冷たくて。
「寒かったよね、本当にごめん」
「大丈夫だよ」
温めるようにその手を握り締めたら、カズは心配しないでとニッコリ笑う。
でもその頬はまだ赤くて。
さっきは勝手に照れてるんだと決めつけたけど、やっぱり寒さのせいだったのかもしれない。
風邪を引かせてしまったら大変だ!
「早く中に入ろう!」
カズの手を引いて足早に教室に向かいながら、ふと思う。
去年のバレンタインには好きな人がいると言って断った。今も変わらず好きなその人が今は恋人なんだ…
「カズ、大好きだよ」
「…俺も///だいすき///」
込み上げる想いをどうにも出来ずまっすぐ伝えれば、カズは照れながらもすぐに答えてくれて。
可愛い笑顔に見惚れながら、しみじみと幸せを噛み締めた。