第9章 バレンタイン
カズはそっと距離を取って、少し離れたところで足を止めた。
腹を括って1人で進んで行くと、わっと女の子たちに取り囲まれたけど。
口々に伝えられる好意の言葉にも、一斉に差し出されたチョコレートと思われる包みにも、心は全く動かない。
「ごめん、付き合ってる人がいるから受け取れない」
キッパリと告げた言葉に女の子たちが息を飲んだ。
でもある程度予想していたのか、去年よりずっと静かな反応だった。
「どうしても受け取ってもらえませんか?」
「私たち何も望みません。受け取ってもらえるだけでいいんです」
「大切な恋人を悲しませたくないから、ごめんね」
おずおずと聞かれたが、そんな中途半端なことはこの子たちにも失礼だし、最初からする気もないからスッパリ断らせてもらう。
「…分かりました」
断られる覚悟はしていたのかな。
みんな悲しそうではあるけれど、あっさり引いてくれたからホッとした。
でも、用事は済んだはずなのに女の子たちは立ち去らない。
「そんなに想われてる相手の方は幸せですね」
「きっととても素敵な人なんでしょうね」
羨望なのか、単なる好奇心なのか。
興味津々な目で俺の恋人のことを探ろうとする。
「そうだね、俺の恋人は宇宙一可愛いよ」
そんなに知りたいのなら、いくらでも教えてあげよう!
「花が咲いたみたいな笑顔に一目惚れしたんだ。でも、外見もめちゃくちゃ可愛いけど、もちろんそれだけじゃなくて。自分より人のことを優先する優しい性格で、頭の回転が速くて、運動神経も良くて…」
カズのことならいくらでも話せる。
潤たちはまともに取り合ってくれないから、好きなだけカズの魅力を語れるこんな機会はなかなかない。
嬉しくて延々と話し続けていたけど、ふと気付けば女子たちが若干引いていて。
そっちが話を振ったくせに失礼な反応だな。