第9章 バレンタイン
「みんなでお菓子作り楽しかった?」
「うん!あのね、めちゃめちゃ美味しくできたんだよ!楽しみにしててね♡」
「もちろん!すごく楽しみにしてるよ!」
「うふふ♡」
誰もいない通学路にカズと2人きり。
学校まで並んで歩くこの時間が大好きだ。
カズもニコニコしながら昨日のことを色々話してくれて、幸せなひと時を過ごしていたんだけど。
「でね、智がその時ね…」
校門の前で女子の集団が待ち構えてるのが見えた瞬間、カズは言葉を途切れさせて。
あっという間に可愛い笑顔が消えて、表情が固く強ばってしまった。
女子たちはこちらを見て色めき立ってるから、やっぱり俺を待っていたんだろう。
思わずため息が出てしまう。
去年キッパリ断ったから今年は居ないんじゃないかと思ってたけど、甘かったか。
まぁ、駅にもいたもんな。
彼女たちの好意は有難いと思うけれど、正直困る気持ちの方が大きい。
何よりも大切なのはカズだから。
カズにこんな顔をさせるなんて、若干の苛立ちすら感じてしまう。
でも、もう気付かれてしまっているから今さら逃げることも出来ない。
これは読みが甘かった俺が悪いな…
「ごめんね、カズ。すぐ終わらせるから待っててくれる?」
女の子たちをじっと見つめるカズに声を掛ける。
本当にごめんね。
そんな不安そうな顔をしないで。
「俺が好きなのはカズだけだからね…大好きだよ、カズ」
女の子たちに聞こえないようにカズの耳元に口を寄せて、囁くように伝える。
どうか信じてほしい。
疑う余地なんてないくらい、カズだけが大好きだよ。
カズはボンっと耳まで真っ赤になって、それでもこくりと頷いてくれた。