第9章 バレンタイン
いつもの待ち合わせ場所、いつもの時間。
いつも通りカズを待っていたら、すぐにやって来たカズが俺を見るなり安心したように笑った。
去年は待ち合わせに少し遅れて朝から悲しい思いをさせてしまったから、今年は途中で何があっても絶対遅れないよう早めに家を出てきたんだ。
今年はないんじゃないかと思っていたけど、結局駅で何人かに捕まってしまったから、時間に余裕を持っていて本当に良かった!
もちろん全員キッパリ断ったからチョコは持っていない。
「おはよ、翔ちゃん♡」
「おはよう、カズ」
それにしても、今朝はカズが一段と可愛く見えるのは俺がバレンタインで浮かれているからだろうか。
いや、俺のカズはいつだって最高に可愛いけどね。
そのカズはいつもよりちょっと荷物が多くて。
持ってあげたいけど、その中身が何か知っているから、言い方を間違えると早くちょうだいと催促しているように聞こえてしまうかもしれない。
たぶんそんなに重くはないだろうから、カズが自主的に渡してくれるまで触れずにいた方がいいかな…でもな…
静かに葛藤していたら、カズにつんつんと袖を引っ張られた。
「昨日は一緒に帰れなくてごめんね?…怒ってる?」
「怒ってなんかないよ!」
カズの荷物を持つか否かで迷って黙り込んでしまっていたのが、不機嫌そうに見えたんだろうか。
上目遣いで様子を伺うその瞳が不安そうに揺れているのに気付いて、慌てて否定する。
有り得ないことで不安にさせてどうする!
「そりゃ、カズと一緒に帰れないのは寂しかったけどね。俺はいつだってカズと一緒にいたいから」
「…ごめんね///」
正直な気持ちを伝えたら、カズはぽっと赤くなった。
ごめんと言いつつも、頬が緩んでちょっと嬉しそうに見える。
ああ、可愛い!!