第5章 恋敵
「それなのに先輩はあんな嫌な態度ばっかり取ってた俺まで助けてくれて…自分は縫うような怪我をしたのに俺の心配までしてくれて…俺だったらそんなこと出来ない…」
菊池は顔を上げるとまっすぐに俺を見た。
俺に対する時いつも浮かべてた皮肉っぽい色はどこにもない。
「可愛いだけじゃなくて、そんな人だから…だから櫻井先輩が好きになったんだって…俺、やっと現実を受け入れることが出来たんです」
そう言いきった菊池はスッキリとした顔をしていた。
どうやら俺のこと認めてくれたみたいだけど。
それはとっても嬉しいんだけど。
俺はそんな大層なことしてないよ。
もちろん菊池に感謝されたいとか、恩を売りたいとかそんなことは欠片も思ってなかったし。
ただ助けなきゃって。
本当にただそれだけで、ほかには何にも考えてなかっただけなんだ。
普通そうでしょ?
目の前に危ない状況の人がいたら助けるでしょ?
当たり前のことしただけなんだよ…
でも思いがけずここ最近の悩みが解決したみたいで、俺もなんだかすごくスッキリした気分。
「本当にすみませんでした」
「もういいよ」
何度目か分からない謝罪と共にまた頭を下げられたけど、すごく穏やかな気持ちでもういいって言うことが出来た。
確かにずっとモヤモヤはしてたけど。
菊池の気持ちも分かるんだ。
翔ちゃんはモテモテだから、何かがちょっと違ってたら、俺だって菊池と同じ立場になってたかもしれないんだから。
それに俺もやられっぱなしだった訳じゃない。
それなりに意地悪なこともしちゃってたから。
お互いさまだよね。
だから本当にもういいよ。
「ありがとうございます」
やっと顔を上げた菊池は照れくさそうに笑ってた。
なんだ、こんな顔も出来るんじゃん。
そういえば笑顔を見るのも初めてだ。