第5章 恋敵
でも、今までイヤミしか言われたことなかったから、こんな素直な態度取られちゃうと何だかソワソワする。
「ねぇ、しおらし過ぎてちょっとキモチワルイんだけど」
「なんてこと言うんですか!」
「ふふふ」
本音半分からかい半分で口にしてみたら、今度は情けない顔になって食ってかかってくるのが面白い。
これからはこんな風なやり取りが普通に出来るんだと思うと何だか嬉しかった。
「ま、いーや。これからもよろしくね」
俺が差し出した手を菊池はちょっとはにかみながらしっかり握った。
まさか菊池とこんな穏やかな気持ちで向かい合える日が来るなんて思ってなかったな…
握った手をぼんやり見つめながら、良かったなーってしみじみ喜んでいたら。
「菊池ー!!!お前何勝手にカズの手を握りしめてんだ!!!」
血相変えた翔ちゃんが突然すっ飛んできて、菊池を引き剥がして俺を腕の中に閉じ込めた。
「俺の許可なくカズに触るんじゃない!全く油断も隙もない!」
翔ちゃんはプリプリ怒ってるけど、俺たちの会話は聞こえてなかったみたい。
「えぇー…」
いきなり怒られた菊池は困ってはいたけど、翔ちゃんに抱きしめられる俺を見てももう傷ついた顔はしていなかった。
人の心はそんな簡単じゃないから、急に好きって感情が消えるわけないと思う。
でも菊池のこの反応だけでも、俺のこと本当に認めてくれたんだって思えて。
上田と増田も安心したみたいに笑ってて。
こんな穏やかな空気に包まれた生徒会室は初めてで。
なんだかすごく嬉しかった。