第5章 恋敵
どうせまたいつものイヤミが飛んでくるんだろうと思って軽く身構えてたんだけど、今日はいつもとちょっと違って。
いつまで待っても何も言われない。
身構えてた分なんだか拍子抜けというか…
…っていうか何で?
不思議に思ってつい見てしまった菊池は今まで見たことないくらいシュンとしてた。
「すみませんでした」
その菊池が突然、俺に向かって深々と頭を下げた。
…え?本当に何なの?
俺、謝られるようなこと何かした?
「俺、すぐ隣にいたのに何も出来なくて…」
戸惑う俺には気づかずに、菊池は下を向いたまま悔しそうに呟いた。
ああ、翔ちゃんを守れなかったことを言ってるのか。
それなら謝るのは俺じゃなくて翔ちゃんになんじゃないの?
あんなの事故だから菊池が謝ることじゃないと思うけど
「えっと…ほら、近い方が逆に見えにくかったりするしさ…」
あんまり落ち込んでるから、つい励ますようなことを口にしてしまったりして。
話しながら、そういえば…と思い出す。
「俺おまえのこと力いっぱい突き飛ばしちゃったけど、ケガしなかった?」
「…かすり傷ひとつないです」
「なら良かった」
「…ありがとうございました」
確認したら、菊池はシュンとしたまま再び頭を下げた。
ケガがなかったなら良かった。
木材に当たらなくても、突き飛ばされたせいでケガしてたら元も子もないもんね。
ホッと安心して、胸をなでおろして。
そこで会話が途切れてしまった。
今まで菊池にこんな殊勝な態度取られたことないから、俺もどうしたらいいのか分からなくて困る。
もう会話を切り上げちゃえばいいんだろうけど、菊池は黙ってチラチラと俺の様子を伺っていて。
まだ何か言いたげな顔してるんだよなぁ…
とりあえず目線でなに?って促してみたら、菊池はしばらく躊躇っていたけど。
やがて気合いを入れるように大きく息を吐いてから、覚悟を決めたように口を開いた。