第5章 恋敵
帰り道、姉ちゃんが俺が治療を受けてる間にあった翔ちゃんとのやり取りを教えてくれた。
翔ちゃんは母さんたちに状況を説明して、自分のせいで怪我をさせてしまって申し訳ないと何度も謝ってくれたらしい。
翔ちゃんはなんにも悪くないのに…
「翔くんね、もしあんたになにかあったら一生掛けて責任取りますからって言って、お母さんと私に頭下げたのよ」
姉ちゃんはクスクス笑いながら、俺の頬を突っついてくる。
「プロポーズかと思ったわ。お嬢さんを僕にください的な」
「本当にねー、あんたを嫁に出す気分だったわよ」
完全に揶揄う口調の姉ちゃんに、母さんまで乗っかってクスクス笑い出して。
嫁って…!!
翔ちゃんとの関係を知ってる姉ちゃんはともかく、母さんはどんな気持ちでそんなこと言ってんだよ!!
何か言わなきゃって思うのに、口がパクパクするだけで意味のある言葉が出てこない。
たぶん今、俺の顔は真っ赤だと思う。
「こんなんでも男だから少しくらいのケガ全然気にしないでいいって言っといたからね」
「こんなんでもってなんだよ…」
まだクスクス笑い続けてる姉ちゃんに何とか言い返したけど、我ながらちっさい声だなって思う。
そしたら姉ちゃんは母さんに聞こえないくらいの小声で、俺の耳元で囁いた。
「好きな人体張って守るなんて男見せたじゃない」
名誉の負傷だねって褒めてくれるその声にはもう揶揄いの色はなくて。
ちゃんと労ってくれてるのが伝わってきて、単純に嬉しかったから。
「…うん」
素直に頷いたら、頭を撫でられて。
胸があったかくなった。