第5章 恋敵
「心配掛けてごめんね」
震える翔ちゃんをぎゅっと抱きしめる。
大丈夫だよ、俺はなんともないよって。
伝わるように力いっぱい。
「ごめんね、ほんとに大丈夫だから…」
言葉でも何度も何度も繰り返し伝えて。
ちっちゃい子をあやすみたいに背中をポンポンってしてたら、少しずつ翔ちゃんの震えは落ち着いていった。
「お願いだから、もうこんな無茶しないでね」
腕の中から懇願するみたいに翔ちゃんが呟く。
翔ちゃんのお願いは何でも聞いてあげたいけど…
でも、もしまた同じような場面になったら、俺は何度でも同じ行動を取るよ。
だって自分より翔ちゃんの方が大切だから。
ただ、俺だって痛いのはイヤだし。
翔ちゃんを泣かせるのもイヤだ。
だから…
「うん、次からはケガしないように気をつけるね」
「次って…」
俺は大真面目に答えたんだけど、やっと顔を上げてくれた翔ちゃんは何故かちょっと困ったように眉毛を下げていて。
なんでこんな顔するんだろ?
翔ちゃんは首を傾げる俺をまじまじと見つめてから、諦めたみたいに小さく笑った。
「じゃあ、俺は次がないように気をつけるよ」
なんで笑われたんだ分かんないけど。
「本当にありがとう、カズ」
そう言って微笑む翔ちゃんは、もういつもの翔ちゃんに戻ってて。
翔ちゃんに笑顔が戻ったから、いいことにしよう。