第5章 恋敵
「翔ちゃん…そんな顔しないで?なんにも翔ちゃんのせいじゃないよ?」
すっかり俯いてしまった翔ちゃんの顔を、下から覗き込んで無理やり目を合わせる。
「木材が倒れてきたのは事故だし、ケガは俺が勝手にしたんだし…」
「そんなことっ…」
事実を言ってるのに、すぐに否定しようとしてくれる優しい翔ちゃん。
でも今は最後まで聞いてほしくて。
翔ちゃんの口に人差し指を当ててそっと遮った。
「俺ね、翔ちゃんを守れて嬉しいんだよ?」
「…え?」
にっこり笑うと、翔ちゃんは驚いたように目を丸くした。
「俺、いつも翔ちゃんに守ってもらってばっかで…今回も、もし逆の立場だったら、翔ちゃん絶対俺のこと助けてくれたでしょ?」
「それはもちろん!」
聞いてみたら、翔ちゃんの口を押さえてた手をぱっとどけられて。
間髪入れずに力強い返事が返ってきた。
その迷いのなさに嬉しくなる。
「ありがと。あのね、俺も同じ気持ちなの。目の前で翔ちゃんが危ない目に遭いそうになってたら全力で助けるよ。だって翔ちゃんのことが大好きで大切だから」
「カズ…」
「まぁ、今回はアレコレ考える前に体が動いちゃっただけなんだけど…しかも結局守りきれてなかったし…」
翔ちゃんの左手を見るとずーんと気持ちが沈む。
自分がケガしただけで済めば良かったのに。
本当にカッコ悪いったらありゃしない…
「そんなことないよ。カズが守ってくれたから、こんなかすり傷1つで済んだんだよ…ありがとう、カズ」
ちょっと落ち込んじゃった俺を翔ちゃんの笑顔がふわりと浮上させてくれる。
でも翔ちゃんの笑顔も元気がない。
ああ、いつまでも落ち込んでちゃダメだ。
俺の気持ちをちゃんと伝えなきゃ。