第5章 恋敵
その後すぐ母さんたちが挨拶し始めて、保健の先生から何か保険とか書類とかの説明があって。
その間にやっと翔ちゃんに話し掛けられた。
「翔ちゃん大丈夫だった?本当にケガしてなかった?」
「うん、俺は何ともないよ」
翔ちゃんは俺を安心させるように笑顔を浮かべてくれたけど、まだ顔色が悪い。
よく見たら翔ちゃんの左手の甲には大きな絆創膏が貼ってあって。
「手ケガしてる!」
やっぱり守りきれてなかったんだ…
「ごめんね…痛い?」
翔ちゃんの手を取って、絆創膏の上からそっとなでなでする。
早く痛みが飛んで行きますように…
傷跡が残りませんように…
心の中でお祈りしていたら
「なんでカズが謝るの?こんなのかすり傷だから痛くないよ」
翔ちゃんは困ったように眉を下げて、逆に俺の手を捕まえた。
「それよりカズは?大丈夫なの?」
「俺?脳も骨も何ともなかったよ!俺って頑丈だよね」
覗き込んでくる瞳が本当に心配そうで。
今にも泣きそうに揺れていたから、これ以上心配掛けないようにわざと明るい声を出す。
「ホッチキスって言ってたけど…」
「傷を止めたの。髪の毛で見えない位置だし、頭は縫うよりホッチキスがいいんだって」
「3針も…痛かったよね…」
「大丈夫!もう痛くないよ!」
本当はまだちょっと痛いけど。
こんなの全然大したことじゃないよ。
でも、俺が何を言っても翔ちゃんの顔はどんどん曇っていってしまう。
「ごめん…ごめん、俺のせいで…」
絞り出すみたいな声に胸がぎゅっと締め付けられた。
…ちがう。
俺は翔ちゃんにこんな顔させたかったわけじゃない。