第5章 恋敵
「かなり出血したみたいだけど…」
俺の制服を見て母さんが眉を顰める。
言われて俺も視線を下げてみたら、確かにシャツが血まみれでひどいことになってた。
そりゃ心配にもなるか…
「頭はちっちゃい傷でも血がいっぱい出るんだって」
「その様子じゃ大したことなかったのね?」
のんきに説明する俺の様子を見て、母さんもこれは大丈夫だと思ったんだろう。
少し安心したような顔になった。
「うん、全然…ホッチキス3針だけ…」
本当に大したことないんだよって伝えようと思って、軽くポロッと言っちゃったら。
「…ホッチキス?…3針?」
ポツリと呟いたのは、母さんじゃなくて翔ちゃんで。
しまった!と思った時には、翔ちゃんはまた真っ青になってしまってた。
あー…不用意すぎた…
そりゃいつまでも内緒には出来ないかもだけど、もうちょっと言葉を選んでマイルドに伝えることは出来たのに。
「しょ…」
「翔っ!」
急いでフォローしようと口を開きかけたところで、翔ちゃんのお母さんが駆け込んできた。
「あんた怪我は?」
「ないよ!大丈夫!」
掴みかかりそうな勢いで安否確認するおばさんに、翔ちゃんが目を白黒させながら答える。
おばさんは翔ちゃんの全身にざっと視線を走らせて本当にケガがないことを確認したら、翔ちゃんの肩をペシっと叩いた。
「もう!人騒がせな子ね!」
「いてっ」
文句を言いながらも、おばさんはホッとしたみたい。
うちの母さんと同じ安心した顔してた。