第5章 恋敵
その後、駆けつけて来た保健医がニノの手当てをしてくれた。
切れていたのは頭。
おでこのちょっと上、髪の毛で傷跡も隠れる位置だ。
傷自体は1cmちょっとくらいらしい。
頭は小さな傷でもかなり出血するからね…という保健医の言葉を聞いたニノは
「ほら!ね!だから大丈夫なんだよ!」
ガックリと落ち込んだままの翔を何とか励まそうと明るく声を掛ける。
保健医は、明らかに怪我をしているニノと、一緒に下敷きになった翔に、あれこれ質問して体調を確認して。
とりあえずは大丈夫そうだったけど。
ニノの出血が止まらないのと、やっぱり頭のことだからと、このまま病院に連れて行かれることになった。
パッと見は怪我のない翔も、念のため…と一緒だ。
いつの間にか、美術部や生徒会の顧問、担任に学年主任に…と、教師たちも大勢駆けつけてきてて。
状況説明を求められたけど、それは班長たちが引き受けてくれたから、俺たちは生徒会室から2人の荷物を取ってくることにした。
「はい、これ」
「ありがとう」
差し出した荷物は当然のように翔が2人分を受け取った。
「翔ちゃん、自分で持てるよ?」
「ダメダメ!絶対ダメ!!」
ニノは翔に向かって手を差し出すけど、翔は頑として渡さない。
「でも…」
「カズ、まだ血が止まってないんだよ?お願いだから無理しないで…」
翔の言う通り、傷にあてられたガーゼにはまだまだ血が滲んでいて痛々しい。
「むぅ…」
翔が泣きそうな顔で懇願すると、ニノは渋々と手は引っ込めたけど。
「翔ちゃんだって顔色悪いのに…」
口を尖らせて、ぶちぶち言ってる。
全然納得してないな。
まぁ、ニノも翔のことが心配なんだろうけど。
今はニノの方が分が悪いと思う。