第5章 恋敵
「俺は…大丈夫…カズが庇ってくれたから…」
「でも顔色悪いよ…どこか痛い?」
翔が大丈夫と言ってもニノは信じない。
心配そうに翔の頬に触れたニノの手を、翔がそっと捕まえた。
「怪我してるのはカズだよ…痛いのも…カズでしょ…」
「え…?」
「血が…すごい出てる…」
「ええ…?」
ニノは首を傾げながら、なんでもないみたいに無造作に頭に触れて。
「痛っ…」
顔を顰めた後、血がベッタリついた手のひらを見て、ギョッとしたように目を見開いた。
あんなに出血してんのに、気付いてなかったのかよ…
それだけ翔のことしか頭になかったってことか。
改めて、ニノの翔への想いの深さを感じる。
ニノは驚いた顔でしばらく血まみれの手のひらを見つめていたけど。
「ごめん…ごめん、カズ…俺のせいで…」
「翔ちゃんっ」
翔が震える声で謝ると、ハッとしたように顔を上げて。
声と同じに震える翔の体をぎゅっと抱き締めた。
「ごめん…ごめんね…」
「謝らないで!翔ちゃんのせいじゃないよ!俺が勝手にやったの!」
「でも…ごめん、痛いよね?ごめんね…」
「こんなの全然大丈夫だから!気にしないで!ね?」
泣きそうな顔で謝り続ける翔を、怪我してるニノが一生懸命励ます。
「俺より翔ちゃんがケガする方がイヤだもん…そっちのが痛いもん…だから翔ちゃんにケガがないなら本当に良かった!」
そう言ってニノはにっこり笑った。
なんならその顔からは、やり切った達成感みたいなものまで感じられて。
心から良かったと思ってるのが、見てるだけの俺にも伝わってきた。