第5章 恋敵
「翔ちゃん、手はなして?」
仕方ないから直接お願いしてみたら、翔ちゃんは悲しそうに顔を曇らせた。
「カズは俺と一緒に居たくないの?」
もう…そんな悲しそうな顔しないでよ…
俺だって好きでこんなこと言ってるわけじゃないんだから。
「そんなわけないでしょ!俺だって本当はずーっとずーっと翔ちゃんとくっついてたいよ?」
それが本音。
でも、ここでずっとこのままって訳にはいかないじゃん…
翔ちゃんは会長で、お仕事がたくさんあって。
俺にもまだまだ覚えることがたくさんある。
みんなの…特に菊池の視線も痛いし…
ちょっとズルいかなって思うけど、こうなったら泣き落としだ!
「俺、会長の顔でキビキビ仕事してる翔ちゃんもカッコよくて大好きなの…でもこの状態だと近すぎて見えないよ…」
悲しい顔を作って目をウルウルさせて翔ちゃんを見つめてみる。
こんなのワザとらし過ぎるかな…
ウソは1個も言ってないけど…
ちょっと心配になったけど、翔ちゃんの眉がピクっと動いたのが見えたから。
「今日もカッコよく働く翔ちゃんが見たいのになぁ…」
めげずに続けてみたら、翔ちゃんの顔がほにゃっと崩れた。
「そんな可愛いこと言われたら、ますます離したくなくなっちゃうよ…」
ええっ?もしかして逆効果だった?
翔ちゃんの腕にぎゅっと力が込められて焦ったけど
「でもカズにもっとカッコいいって言ってもらうために頑張らなきゃね」
翔ちゃんはにこっと笑うと、そっと俺を離してくれた。
自分で離してって言ったくせに、本当に離れちゃうとさみしい…
「すみません、先輩。お待たせしました」
でも一気にキリッとした翔ちゃんはもう会長の顔になってて。
やっぱりカッコいい…///