第5章 恋敵
ニノは智にすら何にも話さない。
生徒会とも菊池とも関わりのない智にくらい愚痴や泣き言を言ったっていいと思うのに。
1人で黙って全部抱え込んで…
だから余計に智も心配してるんだ。
そうやって頑張ってるニノを、翔は疑うのか…?
何も分かっていない翔に腹が立つ。
でも翔は、つい睨んでしまう俺を全く気にすることなく
「いや、カズを疑ってなんかないよ」
あっさりと否定した。
「惚気けるわけじゃないけど、カズが俺のこと大好きなの知ってるつもりだし」
照れたように笑うその顔は本当にニノのことを信じているようで。
どこをどう聞いてもノロケでしかないが、いつもならケッと言いたくなるノロケも今は聞けて安心出来た。
「最近、生徒会でみんながいても甘えてくれたりしてさ、それが可愛いのなんのって…」
言いながら翔の顔がデレデレと崩れていく。
ニノのその態度は菊池に見せつけてるのもあるんだろうけど。
そこに愛があるのは確かだし、それがちゃんと翔に伝わっているなら良かった。
「だから俺が疑ってるのはカズじゃなくて菊池だよ!カズにその気がなくても、あれだけ可愛いんだから相手が勝手に好きになっちゃうことは全然あるだろ?」
ただ菊池のことは完全に誤解しているらしい。
デレデレから一転、一気に厳しい顔になった翔を見て。
何だか菊池が不憫に思えて、またため息を吐いてしまった。
菊池の態度は全然肯定出来ない。
誰を好きだろうとそんなの菊池の勝手だけど、思うようにいかない苛立ちを翔本人じゃなくてニノにぶつけるのは絶対間違ってる。
菊池が翔のことを本当に好きなのは俺にも分かる。
でもどんなにニノに当たったって、それで翔が振り向くわけがない。
それどころか、恋敵を好きなんじゃないかと誤解されてるし…
こんだけ鈍いやつにはハッキリ告白しなきゃダメだってことだ。
まぁ、告白したところで結果は見えてるけど。
翔はニノしか見ていないから。
それでも当たって砕ければ気持ちの区切りにはなると思う。
そう簡単なことじゃないなのも分かるけど、ずっと今のままってわけにもいかないだろう。
想いを秘めておけるなら好きにすればいいけど。
それが出来ないからニノに当たるんだろ?
もう気持ちを切り替えた方が菊池のためだと思うんだけどな。