第5章 恋敵
「なぁ、菊池は?名前挙がってなかったけど…」
一応確認すると、翔の眉間のシワが深くなった。
「菊池!アイツが一番要注意人物なんだよ!」
「要注意…」
確かに要注意人物だけど、翔はどの意味で言ってるんだ?
「なんか俺の目を盗んでカズと2人でコソコソ喋ってたりさ、意味深な視線を交わしてたりしてさ…」
「………はぁ」
思わず大きなため息を吐いてしまった。
イヤな予感は的中したらしい。
やっぱり翔は全く気付いていなかった。
それどころか何か変な誤解をしてないか?
「お前…まさかとは思うけどニノのこと疑ってないよな?」
「疑うって?」
「浮気とか心変わりとか…」
声が低くなるのが自分でも分かった。
菊池は分かりやすく翔に媚び、ニノにはキツく当たっているらしい。
まるで、嫁をいびる姑のよう…とは増田の例えだ。
最初は言い掛かりをつけているようにしか見えない菊池の態度に、上田も増田も先輩たちも、ニノを庇ってたみたいだけど。
それが火に油を注ぐことになって余計に状況を悪化させるから、どうか放っておいてほしいとニノからお願いされたそうだ。
それ以降、ニノは誰にも頼らず1人で立ち向かっているらしい。
まぁ負けるどころか、しっかりやり返してるみたいだけど。
こんなの翔に言えばあっという間にケリがつく話なのに…
ニノは何だかんだ言っても優しいから、菊池のことを考えてやってんのか。単に意地なのか。
ニノが何を考えてんのかは分かんないけど。
翔が気付いてないのは、菊池が翔には隠そうとしてるせいもあるだろうけど。
ニノも翔に何も言わないからなんだろう。