第5章 恋敵
「ここ間違えてますよ。まだ仕事覚えられないんですか?」
菊池はどんなに小さなミスでも見逃さない。
まるで姑みたいに、ちくちくイヤミを言ってくる。
先輩たちや増田たちは、まだ入ったばかりだから…ってフォローしてくれるけど。
菊池はそれも気に入らないみたいで
「そうやってみんなから甘やかされて、いいご身分ですね。せいぜい俺たちの足引っ張らないでくださいね」
なんて、誰かが俺を庇うような発言をすると更なるイヤミが飛んでくる。
かなりムカつくんだけど、おかげであっという間に仕事を覚えることが出来た。
まぁ、ほんとに重箱の隅をつつくみたいにして探し出された小さなミスでも、それは間違えた俺にも非があるからムカつくけど仕方ない…と思えなくもない。
でも何が腹立つって、菊池は翔ちゃんの前では良い子ぶるってこと。
俺にケンカ吹っかけるのも、翔ちゃんには見えないように聞こえないように、すごく気をつけてる。
それが一番腹が立つ!
翔ちゃんには見せられないことしてるって自覚あるってことでしょ?その上でやってるんでしょ?
陰でコソコソしてさ。
ほんと性格悪い!
俺はそんなズルいことしない。
どんなに腹が立っても翔ちゃんに言いつけたりもしないもん。
正々堂々たたかってやる!
その上で打ち負かしてやるんだから!
「智、がんばれって言って」
「…?がんばれ?」
突然のお願いに、智は首を傾げる。
心配してくれてる智にも詳しいことは言えない。
告げ口するみたいでイヤだから。
本当は思いっきり愚痴りたいけど…
何を言っても悪口になっちゃうから、どうせ言うなら本人に直接言ってやる!
「俺、絶対に負けないから!応援して!」
「ニノがそんな闘争心むき出しにするなんて珍しいねぇ」
智はのほほんと感心してから、ふにゃっと笑った。
智の笑顔に、疲れてた心が癒されてく。
「よくわかんないけど、ニノなら大丈夫だよ。頑張って!」
根拠のない智の “大丈夫” は、いつだって俺に力をくれる。
うん!俺は大丈夫!
負けるもんか!!