第5章 恋敵
それに気にするなと言われても、やっぱり申し訳ない気持ちみたいなのは消えなくて。
どうしたものかと思ってたけど。
そんな気持ちを吹き飛ばしてくれたのも菊池だった。
俺に宣言した通り、翌日から翔ちゃんにベタベタまとわりついて。
さりげなさを装って軽く翔ちゃんの腕に触れながら、俺の方を得意げにチラリと見たりしてくる。
何あのドヤ顔!!
ムカつく!!
俺は一応気にして翔ちゃんと距離を取ったりしてたのに…
なんで俺がガマンしてるのに、あいつは好き勝手してんの!?
翔ちゃんは俺の恋人なの!!
そっちがその気なら、俺だってもう遠慮なんてしてやるもんか!!
「翔ちゃーん♡」
菊池を押しのけるようにどけて、翔ちゃんにピタッとくっつく。
「カズ?どうしたの?」
「見て見て、これ俺が作ったんだよ♡」
「すごいすごい!頑張ったね、カズ」
「褒めて褒めて♡」
先輩に教えてもらいながら作った資料を見せたら、満面の笑顔でよしよしって頭を撫でてもらえた。
嬉しくなってぎゅっと抱きついたら、当たり前みたいに抱きしめ返してくれたから。
翔ちゃんに見えない位置から菊池に向かってあっかんべーってしてやった。
悔しそうに顔を歪めてるけど、ケンカ売ってきたのはそっちだからね。
俺は自分で言うのもなんだけど温厚な方だと思う。
だから本当はケンカなんてしたくない。
人を傷つけて喜ぶ趣味なんてないし。
そもそもケンカなんてめんどくさいしさ。
疲れるだけで、何にもいいことないもん。
だから、いつもの俺ならこんなの相手にしないけど。
でも今回ばかりは、そうも言ってられない。
絶対に負ける訳にはいかないんだ。