第3章 an aphrodisiac Valentine.
「…………」
このまま船に戻り予定通りこの後出港するのだろうが、手ぶらで帰る事にどこか後ろめたさを感じる。
用意しなきゃ駄目かな…?
…いやいやいやいや!
でも私とローって一応…恋人…同志?
いや〜でもいらないでしょ⁉
さっきから思考が行ったり来たり。
渡さなかったら文句言われるかしら…
てめぇそれでも女か?
冷ややかに蔑むようなローの表情が脳裏に過る。
「………。」
とりあえず荷物も重いし座って考えようと少し先にあったベンチへ腰掛けた。
うーん…。
これから作る暇なんて無いし、買って用意する?
それならば今買わないと間に合わない。
洋菓子店を再度見ると先程より行列が伸びているような気がして焦った。
「これから並んで出港までに間に合うかしら」
時間を気にするエリナ。
そもそもローは甘い物好きなのかな。
ふと昔一緒に入った食堂でケーキを頼んだ時、勧めたら生クリームは食べていた事を思い出す。
せめて嫌いだったら用意しない理由が見つかるのに。
エリナは贈らない理由が一向に出来なくてだんだんと強迫観念に駆られる。
頭を悶々とさせていた時だった。
「…誰かと待ち合わせですか?」