第1章 コニャック
「おにーさん、この島の人?」
「………さぁな」
「えー、じゃあ違うのかな?」
きゃっきゃと頬を赤らめる女達。
うぜぇ…
「おにーさん一人なの?私達旅行でこの島に来てて、色々教えてくれない?」
小首を傾げて上目遣いでこちらを見つめる女。
女が動くたびにキツイ香水が鼻を擽る。
「悪りぃが誰にもの頼んでん…」
「やだ可愛い子!ローったらモテモテじゃあん」
一掃するべく重い口を開ければエリナがトイレから戻ってきたのか明るい声が耳元で響いた。
ローと名を呼び隣に腰掛けグラスを傾ける彼女の様子に女二人組は連れがいたのかと不機嫌そうに顔をしかめた。
「………」
女達はエリナの登場に無言だった。
なぜならローに並んでも引けを取らないくらいの整った容姿と、その大きく開かれた闇色の瞳は人を惹きつける不思議な魅力がある。
そして頭もキレた。
「お嬢ちゃん達?こいつ見かけはかっこいいけど中身全然駄目だからやめた方がいいよ?意地悪だし横柄だしマジで良いところないから!」
ローの肩に手をかけ顎で指しながら苦虫を潰したような顔でエリナは女達へ囁く。
「お前…ふざけんな」
「ほら、このオーラヤバイでしょ?」
どこか楽しそうなエリナを他所に女達はそそくさと席を立っていった。
去っていった彼女らを確認してエリナは一つ息を吐き酒を喉へ流しこむ。
「モテ男は忙しいわね」
「てめぇ…」
「なによ。私がいなかったらあの子達もっと可哀想な目よ?」
その台詞にローは盛大な舌打ちをして怒りを鎮める事しか出来なかった。
図星だ。
「…コニャックロックでくれ」
ローは酒にぶつけるかのように一層アルコールが強い品をマスターに頼んだ。