第3章 an aphrodisiac Valentine.
「これ、チョコレート。貰ってくれるでしょ?」
これと言って大きな反応はなかった。
「なんかあんのか?」
「へ?…いや、今日バレンタインらしいよ」
「ああ…あったなそんなの」
なんだ。
まぁこんなもんデスヨネ。
数分前までドキドキしていた自分が阿呆らしくて笑える。
「とりあえず置いとくよ、気が向いたら食べれば?」
今はすっかり冷静で、使命は果たしたのでさっさと部屋へ戻ろうと踵を返す。
「食う」
「…!」
そんな台詞が耳に飛び込んできたかと思えば既に箱を手にし、ガサガサとラッピングを解くローがいた。
「買ったのか?わざわざ」
口の端を釣り上げながら封を開けていくロー。
「う、うん」
そんな訳ないでしょ、貰い物です。
なんて言えやしなくて、私はぎこちなく答える。
中身はハートの形をしたチョコレートが二つ並んだシンプルな物だった。
無造作に一つを手に取り、ぽいと口へ放り込んだロー。
「…甘めぇ」
「だってチョコだもん」
義理的に受け取ってくれるだけだろうと思っていたから、まさかその場で食べるとは思わなくてびっくりした。
「一個でいい、お前食えよ」
返されたチョコレートを受け取りエリナは彼女の言葉を思い出す。
ー大切な人と一つずつ分けて食べて下さいね。
……私ダイエット中だし?
どうせ食べるなら今日くらい男子に食べさせた方がいいよね。
エリナは私欲より男子への尊厳を選んだ。
「甘い物嫌いじゃないんだ?」
既に本へと向き戻るローへ問う。
「食えなくはない」
「へ〜」
今後スイーツ屋さんへ彼を誘導しては奢ってもらう算段を思いつき、内心したり顔のエリナだった。
その後残りのチョコレートは食堂へこっそりと置いておいた。