第5章 降り止まない雨はない
みんなが集まる場所へ着くと、そこにはもう身支度を終えた長谷部さんが待ち構えていた。
長「加州、歌仙。いい加減に主の手を離したらどうだ」
両手を繋いだままの私たちを見た長谷部さんがピクリと眉を上げた。
『おふたりは私が転ばないように手を引いて下さったんです。ありがとうございます加州さん、歌仙さん』
両隣りの顔を見上げながらお礼を言って、やんわりと手を離した。
長「あとは次郎太刀か・・・全く、何をモタモタしているんだ。加州、来たばかりのところですまないが次郎太刀を呼んで来てくれ」
加「また俺?」
長谷部さんの言葉に口を尖らせる加州さんがなんだか可愛らしく思えてクスリと笑ってしまう。
『長谷部さん、次郎太刀さんならもうすぐいらっしゃると思います。だからもう少しだけ待ちましょう?』
太郎太刀さんと話をしていた時に部屋に戻ってきた次郎太刀さんは、部屋に入るなり着物を脱ぎ出したんだからと思えば、私の身支度の時間を考えてもそろそろ現れる頃じゃないかと長谷部さんを宥めると、見送りに出ていた他の方々からざわめきが起こった。
加「え・・・ちょっと、どういう事?」
呟く加州さんの肩越しに廊下を見れば、そこには次郎太刀さんではなく、先程見掛けた姿ではなくきちんと支度された太郎太刀さんが長い髪を風に揺らしながら静かに立っていた。
長「何を考えているんだ太郎太刀。この部隊にはお前ではなく次郎太刀のはずだ」
隠すことも無い苛立ちを太郎太刀さんへと向ける長谷部さんを横目に、私は構わず太郎太刀さんへと駆け寄った。
『太郎太刀さん、あの・・・』
ただそれだけ言うと太郎太刀さんは、一度静かに目を伏せ真っ直ぐに私を見る。
太「次郎とは、ちゃんと話をしました。大丈夫です、最初の主のお言葉通り私が向かいます。故に、この場でお許しを頂きたく」
『でもムリに、』
太「大丈夫です。別にヤケを起こしている訳ではありません。過去の自分と向き合うためにも、私にはこの出陣が必要だと判断したのですから」
そう話す太郎太刀さんの目は、さっき話していた時とは違って穏やかながらにも一筋の光が見えた。
その凛とした光に、私は太郎太刀さんが部隊に入ることを認め小さく頷いて、長谷部さんへと向き直した。
『大太刀を次郎太刀ではなく、初期の通りに太郎太刀とします。これは私の決定事項です』
