第5章 降り止まない雨はない
次「そんな事はないさ。昨夜は一期一振が付き合って庭を散歩してたけど、戻って来た一期一振でさえ今のアンタと同じ事を言ってたからね」
彼がそんな事を?
誰にでも優しく、けど必要な時にはきちんと叱る彼が自分を役不足だと言っていたと聞かされ驚いていると、けどね?と次郎太刀が続ける。
次「今のあの子には、長谷部たちが心配過ぎて誰の言葉も届かないって訳じゃないんだよ。アンタが最初に畑に誘った日、わざわざアタシの所に来てあの子は言ったんだよ。アンタが野菜を収穫に私も誘ってくれた。長谷部がいたら泥んこになるのを怒られるかもしれないけど、楽しそうなのでアタシも一緒にどうか?ってね。アタシはあの子の塞いだ顔を知ってたから、ふざけてアタシを長谷部の説教に巻き込むつもりかい?って言ったら、一緒に怒られてくれるんですか?って笑ってたよ」
「泥だらけ、って・・・ハハツ、確かに初日の主は泥だらけだったね」
大根を抜けば、その勢いで尻もちをついて。
葉野菜を抜けば、根についた泥を振り落とすのに夢中になって顔にも服にも泥を跳ねさせて。
それなのに、主は笑ってた。
それを思い出すと、さっきまで張り詰めていたはずの気持ちが緩んでいくのが分かった。
次「野菜の収穫でさえあんだけ喜んでたんだ。だから今度は、夕餉の支度も誘っておやりよ燭台切。短刀たちに混ざってキャッキャと下拵えでもしてたら、それこそ気が紛れるかも知れないじゃないか」
「そう、だね。大丈夫、とか、そんな言葉じゃなくても主が元気になれるなら誘ってみるよ」
次「そうそう、お頑張り?じゃないとアンタ、カッコよくなれないだろ?」
「そ、それはヤダなぁ」
イタズラに笑いを見せる太郎太刀にモゴモゴと返しながら、いつの間にか主を元気づけようとしながら落ち込んでいた自分を見透かしていた次郎太刀に、ありがとうと礼を言う。
「そうと決まれば・・・主ー!そろそろ戻ろうか!そっちはどれくらい採れたかな?」
『あ、えっと・・・これくらいです!』
主を呼ぶと、主は声に反応して大きく振り返り籠に入った野菜を見せてくれる。
「沢山採れたね、今日は何を作ろうかな?」
そう言いながらも頭の中では主が美味しいと言ってくれた物を思い浮かべる。
誰にでも得手不得手はあるんだから、今は僕に出来る事をすればいいんだと次郎太刀の言葉で気持ちが楽になった。