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〖 刀剣乱舞 〗 ~ 風に吹かれて~

第5章 降り止まない雨はない


誰にも反対される事のないよう声を張って伝え、行きましょうと太郎太刀さんに背を向け私は大きな一歩を踏み出した。

その、矢先。

『のわぁっ!!・・・と、あ、えっ?』

小さな段差があるのを忘れ踏み出した一歩は空を切り、ガクンと体を傾けた・・・筈なのに。

その体は背後から抱きとめられ、衝撃で脱げ落ちた片方の草履が宙に浮き揺れる足先に転がっていた。

この事態に自分がどういう状態であるかを認識し顔を上げれば、堪えきれずに笑う太郎太刀さんの顔が真横にあり、また驚く。

太「次郎が目を離せない理由がよく分かった。確かにあなたは、目が離せない方ですね」

至近距離でクスクスと笑う太郎太刀さんからは、着物に焚き込めた凛とした香りが漂い、それがいかに自分が太郎太刀さんの近くにいるかを示しているようで顔が熱くなる。

『すみません、こんな手のかかる主で』

パタパタと顔を手で仰ぎながら言えば、太郎太刀さんはその目を細くしてゆっくりと私を縁側へと腰掛けさせ、脱げた片方の草履を拾い上げては片膝を地に着かせ足に添わせてくれた。

太「さぁ、長谷部の声が荒らげる前にこれを。それとも、この手に抱いてお連れしましょうか?」

『抱き・・・い、いえ!大丈夫です!それこそ長谷部さんに何事かと驚かれてしまいます!』

日頃からドジを踏んでばかりの姿を見られている長谷部さんにそんなのを見られたら、それこそお小言のオンパレードになっちゃうからと慌てて差し出された草履に足を乗せた。

『ん、これで大丈夫』

つま先を地にあて履き心地を感じ、歩いても滑り落ちることがないのを確認して、そうだ、と懐からひとつの御守りを取り出す。

『太郎太刀さん、これをあなたにお渡しします。座学のときに長谷部さんから聞いたんです。今は私の技量が少ないから今はひとつしかないんですけど、これを持って行って下さい』

太「これが発動するほどの無茶はしないつもりですが・・・いえ、そうですね。もしも、の時の為に受け取っておきましょう」

ですが、と太郎太刀さんが御守りを受け取りながら私を見る。

太「本当は、他の誰かに渡そうとお考えだったのではないですか?」

そう言った太郎太刀さんに私は首を振る。

『誰に渡したらいいのかを長谷部さんに伺おうと思っていたのですが、私が今、太郎太刀さんにお渡ししたいんです。だから、そのままに』
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